「 DNA は一生変わらない」は間違い?体細胞変異が明かす、私たちの身体の驚くべき真実!!

2.

 DNA の体細胞突然変異の性質が外見に明らかに反映している状況をいくつか紹介したい。20 世紀初頭にアルフレッド・ブラシュコ( Alfred Blaschko )というドイツの皮膚科医が、体全体の皮膚にそれぞれ異なる色素沈着パターンを持つ 140 人の患者を研究した。この研究データは公表されている。帯状の濃い色の沈着は、患者ごとに似たようなパターンをたどることが多かった。背骨の上部に沿っていくつもの V 字、腹部に沿っていくつもの S 字、そして両乳房に沿っていくつもの逆 U 字の沈着が見られた。これらのパターンは今でも「ブラシュコ線( lines of Blaschko )」として知られており、私たちが現在モザイク現象( mosaicism:変異を持つ細胞と持たない細胞が混在する状態)として認識しているものの証拠である。これらが突然変異によって生じたと最初に示唆したのは、ソ連の外科医モイセイ・ズロトニコフ( Moisey Zlotnikov )である。彼は 1945 年に、農民の家庭出身の 24 歳の女性について書いている。この女性は、左側の顔と体が濃い茶色、薄い茶色、深紅色のさまざまな色の皮膚の帯で覆われていた。子供の頃には悪魔と呼ばれ、嘲笑された。その縞模様は彼女の体の正中線で正確に止まっており、右側の色素沈着は全く正常だった。ズロトニコフは、この症状は胚発生のごく初期に起こった突然変異が原因である可能性が高いと記している。この推測は数十年後に遺伝子解析によって裏付けられた。

 その他のモザイク現象は、体内で現れる。カムシは、脳の半分が異常に肥大する稀な疾患である片側巨大脳症( hemimegalencephaly )を例に挙げている。2006 年に彼女が発表した論文では、一卵性双生児のうち片方だけがこの疾患を患っていた症例が報告された。この症例は、この変異が遺伝によるものではなく、発達過程で生じたことを示唆している。片側巨大脳症の患者は、難治性てんかん( unremit epilepsy )や知的障害( intellectual disabilities )に苦しむことがあり、乳児期に脳神経外科手術が必要となることが多い。ボストン小児病院( Boston Children’s Hospital )の研究チームは、こうした手術で摘出された脳組織を検査した。ニューロンの成長を制御する遺伝子の変異を特定した。その中には、細胞増殖に重要な酵素に影響を与える変異も含まれている。この発見により、新たな治療法が生み出された。予備臨床試験では、重度のてんかんを患う 2 人の子供に、この酵素の働きを阻害する薬が投与された。その結果、いずれも発作が無くなった。

 変異が関与する様々な疾患の中で、がんは間違いなく最も顕著なものである。がんは

一種のモザイク型疾患( mosaic disorder )と考えられる。悪性細胞の中の変異した DNA は、正常細胞の健康な遺伝子構成とは対照的である。2014 年に私は腹部の不快感を訴える女性を治療した。70 代でその後急速に黄疸( jaundiced )を発症していた。CT スキャンでわかったのは、膵臓に腫瘍があること、それが肝臓に転移していることである。腫瘍の遺伝子解析で、重要なタンパク質である p53 の産生を制御する遺伝子を含む、いくつかの遺伝子に変異があることがわかった。正常な p53 は、DNA 損傷のある細胞が増殖するのを防ぐ働きをする。「ゲノムの守護者( guardian of the genome )」と呼ばれている。p53 自体に突然変異が生じると、その防御機能が失われ、エラーがある細胞がさらに増殖する。膵臓がんの 50 ~75% にこの変異が見られる。腫瘍の増殖と転移を促進すると考えられる。

 その患者は化学療法( chemotherapy )を受けた。数カ月間で膵臓と肝臓の腫瘍が縮小した。しかし、その後すぐに、腫瘍が再び急速に増殖した。こうした腫瘍は遺伝子構成が不均一である。がん細胞が化学療法に抵抗性を示すようになるわけだが、個々の細胞の DNA を分析することによってわかることがある。明らかに多様性が増している。ある細胞には特殊な変異が見られ、別の特殊な変異を持つ細胞が無数に見つかる。こうした変異が腫瘍の増殖を加速する。がんの治療をますます困難にする。場合によっては、この患者の場合と同様に命を奪うこともある。がん治療においてしばしば発生する問題がある。それは、化学療法と放射線治療によって無数の多様な変異した細胞の塊を攻撃することで発生する。ダーウィン主張( Darwinism:チャールズ・ダーウィンが提唱した、自然選択による生物の進化理論 )を知る者は多いと認識するが、こうした治療は、ある意味で人工的に腫瘍に進化するための最適な環境を与える。放射線の攻撃等に最も適応した細胞、つまり最も治療抵抗性の強い細胞だけが生き残るのである。カムシは、進化モデルをがん治療に応用したロバート・ゲーテンビー( Robert Gatenby )という医師の研究について一章を割いて論じている。ゲーテンビーが提唱するモデルでは、化学療法や放射線療法をより穏やかな方法で行うことを推奨する。そうすることで、遺伝的多様性を維持できる。それによって、腫瘍を構成する細胞集団が治療に抵抗する新たな変異を絶えず起こすことを防げる可能性がある。