3.
7 月 13 日までに、ミシガン州では 2,640 件のサイクロスポラ感染症の症例が記録された。なお、その時点の CDC の全国的な確定症例数は 843 件で、依然としてミシガン州の数を下回っていた。同日、ミシガン州は調査で重大な進展があったと発表し、レタスが今回の感染拡大の原因である可能性が高いと発表した。SNS 上では、テイラー・ファームブランドの商品が原因であるとの憶測が飛び交った。今回のサイクロスポラ騒動についてまだ公式声明を出していないケネディ長官は、この件についても沈黙を守った。彼は、フォロワーに向けて、個々人の責任においてアメリカの「慢性疾患の負担( chronic-disease burden )」を逆転させるよう促す短いビデオを投稿した。「それは、あなた自身が自分の健康を取り戻すことから始まる」と彼は語る。すると、反ワクチン派でコメディ映画「デュース・ビガロウ、激安ジゴロ⁉( Deuce Bigalow: Male Gigolo )」の主演男優のロブ・シュナイダー( Rob Schneider )が画面に登場する。「君たちはできる!」とシュナイダーは叫ぶ。「活動的になれ!本物の食べ物を食べろ!」
その 3 日後に CDC と FDA は遅ればせながらサイクロスポラ感染症に関する具体的な声明を出した。声明には具体的な指針も示されていた。しかし、内容は具体的なものだったが、いささか奇妙なものだった。声明は「 5 州のタコベル( Taco Bell )店舗で提供されたシュレッドしたアイスバーグレタスが、複数州におけるサイクロスポラ感染症の集団発生の感染源であると特定した」と言及している。付随した消費者へのアドバイスは限定的な内容だった。「インディアナ州、ケンタッキー州、ミシガン州、オハイオ州、ウェストバージニア州のタコベル店舗でアイスバーグレタスを食べてはいけない」というものだった。レタスはすべてメキシコの 1 供給業者が提供したものだったが、企業名は伏せられた。「他の食料品店で販売されている、あるいは他のレストランで提供されているシュレッドしたアイスバーグレタスは汚染されていない」と声明は主張している。
今回の感染拡大を注意深く見守っていた者たちにとって、この声明は不可解だった。サイクロスポラ感染症は、名前が挙げられた 5 州以外でも数千人が罹患していたからである。ニューヨーク州で 374 件、ノースカロライナ州で 307 件、イリノイ州で 227 件が報告されている。タコベルとの関連性は疑う余地もない。FDA が報告した症例を分析すると、ミシガン州の集団感染では 10 人中 9 人が発症前にタコベルの店舗でレタスを含む商品を摂取していたことが明らかになっている。しかしながら、ミシガン州の感染者の中にはタコベル店舗で食事をしないと報告した者も多数存在している。こうした現状から、自社でレタスを栽培していないタコベルがサイクロスポラ感染症拡大の唯一の犯人とされていることに疑問に思う者も多い。少なくともタコベルの熱狂的なファンはそうである。彼らは、ドリトス・ロコス・タコス・シュプリーム( Doritos Locos Tacos Supreme )やナチョス・ベルグランデ( Nachos BellGrand )などのアイスバーグレタスを使ったタコベルのタコスを食べるべきではないとする FDA のアドバイスを余計なお世話と考えている。
しばらくして、ワシントン・ポスト紙( the Washington Post )とタイムズ紙( the Times )が、インターネット上の多くの情報源が以前から結論付けていた事実を公表した。テイラー・フレッシュ・フーズの支社が、サイクロスポラ感染症が蔓延しているメキシコ中部の支社であるが、汚染されたレタスの供給源である可能性が高いという。連邦政府がタコベルを感染源と名指しした翌日の 7 月 17 日にテイラー・フレッシュ・フーズはメキシコ中部産のアイスバーグレタスを「アメリカ市場から自主的に撤去する」と発表した。27 州の卸売業者、スーパーマーケット、レストランに出荷されていた。
同社のリコール通知は、後に FDA のサイトに掲載された。完全な情報開示が旨であるにもかかわらず、一般消費者には分かりにくいものだった。通知文のテキストは、食品安全の専門用語や法的な免責事項、あるいは複雑なロット番号などの羅列ばかりだった。ほぼ暗号のようにしか見えない。「 PV 」や「 MKTSD 」、「 BLEND LETT/ROM 80/20 WITH SEP BAGGIES 4/5# 」といった難解なコードのみを表示して、汚染の可能性のある製品と納入店舗を列挙している。食品安全衛生を専門とする弁護士のビル・マーラー( Bill Marler )は、サイクロスポラ感染症危機を理解する上で有用なブログを運営している。食品トレーサビリティ規則が予定通りに施行されていれば、テイラー・フレッシュ・フーズのリコール通知に記載されている州や店舗などの情報は、5 月に初めて感染例が確認されたのだが、翌日には FDA の手に渡っていたはずであるという。しかし、実際には、7 月第 3 週に FDA のウェブサイトに入って暗号を拾うまで明らかにならなかった。
ケネディ長官はついに沈黙を破った。彼が討論の場に選んだのは、フロリダ州タンパの朝の通勤時間帯のラジオ番組である。彼は司会のライアン・ゴーマン( Ryan Gorman )に、サイクロスポラ感染症は治療可能だと語った。「毎年夏に流行する」とも述べた。確かに、これは事実であるが、通常の年では州ごとに数十人程度にしか感染者は出ない。ちなみに彼は、直近の冬の終わりに発生した致死性の麻疹( measles )の流行についても同様に現実を無視した発言をした。サイクロスポラ感染症に関して必要な調査が為されていないという考えは馬鹿げていると主張し、「フェイクニュース」だと批判している。リスナーは FDA のウェブサイトにアクセスして「調査結果」を見ることができると述べた。調査はまだ進行中であり、見るべき「結果」は出ていないことには触れず、また、彼が監督する機関がタコベル以外のすべてのレタスを一時的とはいえ安全と認定した理由についても説明しなかった。「汚染源が判明した今、人々が健康的な選択をするのはずっと簡単になるはずである」と彼は述べた。しかし、ミシガン州の感染者数はちょうど 5,000 人を超えたところだった。
こうした状況下で、どうしたらケネディ長官の言う「健康的な選択」ができるのだろうか? 爆発的な下痢に、どのように対処すべきなのか? 自然志向でケネディ長官を熱烈支持する MAHA ママと呼ばれる人たちや MAHA に同調する多くのインフルエンサーは、さまざまな反応を示している。寄生虫駆除サプリメントだと称するものを売り込む者もいれば、葉物野菜を食べさせないためのディープステートの心理戦( PsyOps )であると声高に主張する者もいる。ケネディ長官率いる機関からの公衆衛生に関するメッセージは、あまりにも支離滅裂で一貫性がない。一般消費者はどう対応すればいいのか全く分からない状態である。私が最後に TikTok をチェックしたとき、そのアルゴリズムは葉物野菜に薄めた漂白液をかけている者を表示した。私の子供たちは、今のところ、皮付きの果物しか食べない。そうすれば、寄生虫が身体に入らないからである。彼らはずっと前からサラダが身体に悪いと知っていたのかもしれない。
先週土曜日( 7 月 18 日)に、FDA はテイラー・フレッシュ・フーズのアイスバーグレタスのサンプルからサイクロスポラが検出されたと発表したが、すぐにその発表を撤回し「偽陽性」だったと断言した。全くの謎であるが、それは回収対象となったレタスではなく、普通に流通していた。このニュースを聞いた一般の人は、テイラー・フレッシュ・フーズと今回の集団感染を結びつける証拠は何も無かったと考えるかもしれない。同社は FDA が偽陽性について謝罪したと主張し、「 FDA が実施した検査では、当社のサンプルからサイクロスポラの陽性反応を示した例は 1 件も確認されていない」と強調した。なお、FDA は同社に謝罪した事実はないと否定している。
FDA が、これほど重大な調査結果を二重チェックせずに公表することを選んだ理由は、数ある謎の 1 つである。アメリカの機能不全の公衆衛生システムに対する懸念をさらに深めるものである。しかし、偽陽性は、テイラー・フレッシュ・フーズと今回の食中毒拡大との関連性を示す疫学的データや追跡調査データを弱めるものではない。そう指摘するのは、シカゴを拠点とする非営利団体「ストップ・フードボーン・イルネス( Stop Foodborne Illness:食品媒介性病原体による病気と死亡の予防を専門とする組織)」の CEO サンドラ・エスキン( Sandra Eskin )は語る。「病気になった大多数の人がタコベルでレタスを食べ、そのレタスはテイラー・フレッシュ・フーズが製造したものだった」とエスキンは述べる。「強力な疫学的証拠と詳細な追跡調査が為されれば、関連性を証明するための製品検査は必要はない。テイラー・フレッシュ・フーズもそれを知っているはずである」。FDA と CDC は「このことをうまく伝えられなかっただけである」と付け加える。
7 月 21 日までに CDC は 41 州からサイクロスポラ感染症の報告を受けている。ミシガン州では 7,000 件近く、オハイオ州北西部では 2,000 件以上が報告されている。記者会見でケネディ長官は「我々は感染拡大を制御下に置いている」と主張した。この発言は、食品サプライチェーンにおけるサイクロスポラの感染源の特定のための調査を現在も引き続き行っているとする FDA のスタッフの発言と矛盾している。「どの食品が感染源であるのか、なぜ多くの人が発症しているのかについて、これほど多くの矛盾した情報が出回っている状況下で、ケネディ長官が使った『制御下』という言葉が何を意味するかを理解するのは不可能である」とエスキンは述べる。
公衆衛生向上のためには、FDA 長官らが食品供給の危険性に関する基本的な情報を的確に伝えることが不可欠である。また、調査を流通に関わった企業などに丸投げしないことも重要である。私たちの健康を担う機関が適切な資金と人員を確保していることも大切である。食品の産地や製造業者を追跡できる仕組みの整備も重要である。企業が法律によって公衆衛生機関に厳密なデータを提供することを義務付けられ、規制機関への巨額の寄付が禁止されることも重要である。そして、アメリカを再び健康にする任務を負った人物が、ほとんどの疾病を、私たちの精神力を試してさらに強くするために必要なジュースクレンズ( juice cleanse )のようなものと考えないことも重要である。(訳者注:ジュースクレンズとは、一定期間だけ固形物を摂らずにジュースのみで身体に必要な栄養素を補いながら、消化器官を休めるプログラム。消化に使われていた酵素が、代謝酵素として働き、身体の代謝を高めデトックスを促すとされている)
「公衆衛生が機能しているかどうかは、一般の人々には認識しにくい。なぜなら、機能しているときは目に見えないからである」とサンダーマンは語る。「予防が重要であるが、それに投資すべきであることを示すことにアメリカは苦労してきた」。彼は 1 月にトランプ大統領がアメリカを世界保健機関( WHO )から脱退させたことに言及した。「 10 年後や 20 年後に薬剤薬耐を持った病原菌が蔓延し、抗生物質が効かない感染症で死者が大量に出るような事態になったとき、振り返って『 WHO を脱退すべきではなかった』と言う日が来るだろう。それが長期的な影響である。しかし、短期的な影響はまさに今、私たちが目にしているものである。今後、こうした影響は増々顕在化するだろう」。7 月 22 日に、ケネディ長官がサイクロスポラ感染症は「制御下にある」と宣言した翌日であるが、 FDA は新たに発生した集団感染を調査していると発表した。72 人の感染が確認されたが、発生源は「まだ特定できていない」。♦
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