なぜ私たちは顔に支配されるようになったのか?鏡から AI 監視までの衝撃史!

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 近代国民国家( modern nation-state )の官僚機構の根底には、顔をデータポイント、つまり把握・管理すべき対象として定義しようとする動きがある。そこでは、顔が調査され、分類され、デジタルバンクに保存される。私たちは国境を越える際、パスポートを差し出すか、デジタルカメラを見つめることで顔を照合される。誰もが顔写真付きの証明書を持っている。偶然ではないが、整形手術が発展してきたのは、部分的には政府のおかげである。その先駆者であるハロルド・ギリーズ卿( Sir Harold Gillies )は、第一次世界大戦で顔に傷を負ったイギリス兵の顔を修復したことで知られている。今日ではアメリカ国防総省が国内における顔面移植の研究に資金を提供している。

 顔認識システム( Facial-recognition systems )は、今このときもどこかで稼働している。大小さまざまな場面で稼働している。Apple デバイスを起動する時、政権に反対するデモ行進をして監視されている時にも稼働している。この慣行を擁護する人もいれば、非難する人もいる。しかし、これらのシステムの偏りは、人相学が新しい、より不明瞭な形をとったことを示唆している。アメリカの治安のための顔認識システムは、黒人の間で不均衡に高いエラー率を示している。黒人アメリカ人は、このようなシステムの対象となる可能性も不均衡に高い。彼らが刑務所に入る率も不均衡に高く、記録を見る限り再犯率も高い。言い換えれば、黒人の顔が不均衡に高い率で補足される仕組みが、犯罪を犯す率が高い、捕まる率か高い、再犯する率が高い、再び捕まる率が高くなるというループの完成に寄与しているのかもしれない。そして、私の故郷であるイギリスは、常に従兄弟であるアメリカの先例に倣っているようである。2024 年と 2025 年の間に、イギリスの警察は歩行者に対するこの技術の使用をほぼ倍増させた。私がこの文章を書いているまさにその日、ロンドンではパレスチナ支持と移民反対の 2 つの大規模なデモ行進が行われているが、どちらも顔認識技術による積極的な監視が行われている。2013 年以降、イギリスには独立した生体認証コミッショナー( Biometrics Commissioner )が設置されており、歴代のコミッショナーはいずれもこうしたシステムに対する厳格な監視を求めている。プライバシー擁護派は法廷闘争を繰り広げている。治安当局の行動には「実質的な制限がない」と主張する。

 巨大テクノロジー企業の多くも顔認識システムに投資している。一時は感情検出ツールでそれを強化していた。たとえば、アマゾンは 2019 年に、同社のシステム Amazon Rekognition が「 7 つの感情」、つまり「嬉しさ」「悲しさ」「怒り」「驚き」「嫌悪」「落ち着き」「混乱」をより正確に識別できるようになったと発表し、新たに「恐怖」という感情も追加したという。これらはエクマンが主張した 7 つの感情とは微妙に異なっている。おそらく広報担当がエクマン式に「軽蔑」を入れてしまうと売り込むのが難しいと考えたのだろう。Rekognition はチケット販売プラットフォームから信用情報機関まで幅広い顧客を抱えている。移民・税関執行局( Immigration and Customs Enforcement:略号 ICE )にこのサービスを売り込もうとしたようだが、ICE は感情よりも単純な識別に定評のあるライバル企業 Clearview AI を選んだ。 Clearview AI はウェブから顔データを大量に収集している。一時は 100 億枚ものソーシャルメディア上の写真を収集したこともある。同社はアメリカの数州やヨーロッパ諸国で数十件の訴訟を抱え、規制措置も受けている。一方、感情認識の将来は不透明である。Microsoft と Google はいずれも既に感情認識ツールを開発済みである。その後、その利用を制限したり、廃止したりしている。FBI の尋問室以外では、他人の感情を知ることはそれほど価値のあることではないのかもしれない。

 顔の画像を大量に蓄積し分析・活用するという仕組みを、どこもかしこも採用するようになった。治安当局と同じように、美容師も大量に顔を撮影する。そして、分類し、確認する。そして、見栄えを良くし、若返らせるために活用する。測定できるものは、何でも完璧に測定できるようになりつつある。現代の「ルックスマキサー( Looksmaxxers:自身の容姿を徹底的に、時には極端な方法で最大限に磨き上げる人のこと)」に比べれば、昔ながらの化粧品を使うアプローチは、取るに足らないもののように思える。その代表格は、顎が鋭いアメリカ人インフルエンサー、クラビキュラー( Clavicular )である。彼は整形手術に熱心で、自分の骨を砕くことさえ厭わず、「美しさとは性的魅力ではなく、数学の問題である」と語っている。

 超外見至上主義者のクラビキュラーは男性の魅力こそが社会的な成功の鍵であると信じ裕福に暮らしている。彼は極端な例かもしれない。さて、ユーザーが自己ブランディングを行い、自分自身を売り込む、自分の顔を売り込むホットな市場である Instagram のようなプラットフォーム上では彼のように整形手術も厭わない人物で溢れかえっている。そこで、最も成功するためには、アルゴリズムのランキングで上位にランクインする必要がある。そのため、2010 年代には、いわゆる「インスタ顔( Instagram face:SNS のフィルターや写真編集アプリの普及、さらには美容整形のトレンドによって生み出された、世界的に共通化しつつある典型的な容姿)」が台頭した。多くの顔が徐々に収束し、美容医療などで人種的に曖昧な顔になり、唇が厚くなった。様々な動画が示すように、いくぶん動きにくい顔になった。昨年、ITV (イギリスの民放テレビ局)が実施した調査では、スマートフォンとソーシャルメディアの普及率がほぼ 100% である 18 歳から 25 歳のイギリス人のうち、5 人に 1 人が何らかの整形手術を受けていることが示された。ル・ブルトンは著書で、ある程度正当な理由をもって、「整形外科医は、偏執病患者に敵にもっと用心するように助言する精神科医のような存在である」と記している。

 ソーシャルメディアでは、注目を集めるためには顔が重要である。そこで誰かを探す時、私だったら顔が重要なキーになる。しかし、私はこれらのプラットフォームに深入りすることはない。それほど楽しめないからである。整形された顔、演出された生活、それらが私の視線を奪い取ろうとすることに気圧される。そこでは、何か不確かなもの、人間的なものが欠けており、この世界から血液のような重要なものが吸い取られてしまったような感じを受ける。ボトックス注射を受けた人は他人の感情を読み取るのが下手になるという証拠がある。なぜなら、他人と関わる時に、誰もが自分の顔の筋肉で相手の表情を模倣するからである。まるで私たちは顔を商品化し、ガラスケースに収め、しなやかな生き物ではなく、取引の道具に変えてしまっているかのようである。

 誰かが小さな半笑いを浮かべていたら、得意げな笑みかもしれないし、恥ずかしがり屋の笑みかもしれないし、あるいは女性を魅了するような笑みかもしれない。あなたはどれなのか、そしてなぜそうなのかを推測する必要がある。そうすることで、あなたは道徳的な仕事をしていることになる。なぜなら、あなたは微笑んでいる人を、たとえ暫定的であっても、その生き方を理解する必要のある自律的な存在として扱っているからである。さてここで、毎日何十億回も気軽にやり取りされている顔について考えてみたい。それは絵文字( emoji )である。完成していてパッケージ化されている。数は限られている。大手テクノロジー企業の連合によって作られ、発行されている。私は、それらが致命的に安っぽいという感覚を拭い去ることができない。もし私の友人がこの記事について投稿したり、私にメッセージを送ったりして、その際に絵文字を使ったとしたら、私はまずその友人の本当の顔を想像するかもしれない。あるいは、想像しようとするかもしれないが、そうすると私は拠り所を失ったような気持ちになる気がする。本当の顔は、その人が代わりに送ってきた絵文字ほど標準化できるものではないし、別の友人、私のパートナー、あるいは上司などが、以前に全く同じ絵文字を送ってきていたかもしれない。それはすべての特定の個人を代表することはできない。それは作り笑いのようなもので、ありきたりの決まり文句のようなものである。確かに、絵文字は便利な嘘( useful lies )であり、時間を節約し、感情を言葉で表現する難しさを回避するのに役立つ。しかし、そうすることで、私たちは本当の顔が持つ本質的な何かを偽っていることになる。絵文字は、何世紀にもわたって私たちが顔に対して行ってきたこと、つまり、顔のデータを大量に蓄積し、それを商品化し、別の形でも活用することの集大成なのかもしれない。私たちは顔を取るに足らないものにしてしまったのである。