6.
1X は Apple のアプローチを踏襲している。美しい製品をゼロから設計し、製造工程全体を自社で管理している。一方、スキルド AI は Android のアプローチを踏襲している。クロスプラットフォームソフトウェア(異なる OS やハードウェア環境でも、同じ仕様・コードで動作するソフトウェアやアプリ)を開発し、他社製のハードウェア上で動作させている。アプトロニック、宇樹科技、テスラなどは、もしかしたらノキア( Nokia )やブラックベリー( Blackberry )のような存在になるかもしれないが、これらのうちのどれかが最終的に勝利を収める可能性も無いわけではない。
約 700 ~800 万年前、霊長類の一派が分岐し、優れた脳、器用な手、言語能力を発達させ始めた。その系統はアウストラロピテクス( Australopithecus )、アルディピテクス( Ardipithecus )、ホモ・エレクトス( Homo erectus )に分化した。最終的にホモ・サピエンス( Homo sapiens )が現れ、世界を支配した。ロボット開発の初期段階におけるヒューマノイドの多様性を調査すると、同様のことが起こっているのがわかる。基本的な形態、つまり 2 本の腕、2 本の脚、胴体、頭を持つという構造は共有しているが、多くのバリエーションがある。アジリティ( Agility )が開発したヒューマノイドロボットであるディジット( Digit )は、四角い頭とバッタのように人間とは逆向きの膝を持っている。アプトロニックのアポロ( Apollo )は、口と胸にデジタル表示を備えた古典的な SF デザインを採用している。ボストン・ダイナミクス( Boston Dynamics )のアトラス( Atlas )は、おもちゃのような外骨格と、発光する中空の円形の頭部を備えている。テスラのオプティマス( Optimus )、ニューラの 4NE-1 、そしてフィギュアの Figure 03 は、いずれも似たような個性のない、そしてほんの少し不気味なデザインへと収束している。いずれも白いボディに滑らかな黒いフェイスプレートという組み合わせである。これらのうちのどれかが、これから登場する全ての進化の祖先となる可能性が高い。
ミッシング・リンク( missing link:重要な鍵)は、おそらく手だろう。人間の手は、脳と発声器官と並んで、ヒトの進化における 3 大頂点の 1 つである。動物界において群を抜いて最も優れた操作能力を持つ。27 種類もの独立した動作を行うことができる。現時点のロボットの手は大きく劣っている。靴ひもを結びながらトランプをシャッフルできるロボットが登場するまでには、まだ何年もかかるだろう。
1X で、私は筐体から取り外された手と前腕が天井に向かって伸びているのを目にした。組み立てラインに沿って座った多くの研究者が、人工腱を指に取り付けて手首のアクチュエーターに接続していた。他にもたくさん研究者がいて、指先のセンサーに電線を取り付けていた。この電線は最終的にロボットの頭脳へと配線される。近くでは、1 本の指の耐久性テストが行なわれていた。その指は何かを指し示すように伸び、その後くるっと曲がり、この動作の組み合わせを延々と繰り返していた。モニターのカウンターには、この動作が 2,860,631 回行われたことが表示されていた。
ここでもまたロボット研究者の奮闘が続けられていた。ふとスキルド AI のロボットのデモンストレーションを見させてもらった時のことを思い出した。デモンストレーションで私が見せてもらったのは、宇樹科技のロボットがテーブルから白い陶器のコーヒーカップを慎重につかみ、それを収納ボックスの中に置くところである。私がそのコーヒーカップをテーブルに戻すと、ロボットの目の部分に埋め込まれたカメラがそれを追っていた。次に、私はそのカップを横に倒してみた。ロボットは困惑したように見えた。ロボットの手は、カップの上 15 センチほどの何もない空中を掴むような動作をし始めた。
そこにいたロボット研究者が不満そうな表情をしてそのカップを立てると、ロボットはすぐにそれを収納ボックスに戻した。次に私は収納ボックスから青いプラスチック製のボウルを取り出し、テーブルに逆さまに置いた。ロボットはそれを認識し、掴もうとした。が、掴むことができない。ロボットの手がボウルを無駄に動かすのを見て、私は笑った。残念なことに人間の手の方がはるかに優れている。しばらくするとロボットは動きを止めた。どうすべきか考え始めた。約 10 秒後、ロボットはひっくり返ったボウルの底に盛り上がった円形の高台が付いていることに気づいたようである。その高台部分を掴んで、ロボットはそれを持ち上げて収納ボックスに置いた。「おおっ」と研究者は言った。「ちゃんと認識できてる!」♦
以上