世界の未来は中国にかかっている? EV・半導体・ドローンに続いて AI でも中国が世界覇権を奪う未来?

11.

 冷戦時代には、鉄のカーテンの両側で未来学者たちが歴史の方向を決定づけようと計画する一方で、別のグループがもっと控えめなアイデアを中心に結集した。「マンカインド 2000 ( Mankind 2000 )」と名乗ったその団体は、共産主義の決定論とアメリカの傲慢さの両方に警戒心を持つ、ヨーロッパのファシズムからの生還者たちによって構成されていた。彼らは「人間が機械に飲み込まれてしまうかもしれない」と警鐘を鳴らし、「未来は少数の特権階級だけでなく、我々すべてのものである」と宣言した。

 今の北京とワシントンで十分な時間を過ごすと、両国の対立は競合するシステム同士の衝突というより、むしろ少数の寡頭支配グループ間の競争のように見える。つまり、他のすべての人々の未来を左右する絶大な権力を持つ狭い特権階級の集団同士が競い合っているのである。中国では、習近平がテクノロジーを駆使して治安維持と成長を両立させようとしている。アメリカでは、トランプとシリコンバレーの同盟者が、AI のリスクに対する懸念を無視してその開発を優先させている。「我々は AI という赤ん坊を育て、繁栄させなければならない」とトランプは 2025 年に AI 戦略を発表した際に述べる。「愚かな規則でそれを止めることはできない」。

 この視点に立てば、規制、安全性テスト、法的責任、そして労働者の保護はすべて、アメリカが中国との AI 開発競争に勝つためには緩められなければならない。投資家であり第 2 次トランプ政権の AI 政策責任者を務めたこともあるデビッド・サックス( David Sacks )が先日警告したのだが、AI に関して FDA のような規制機関を作ることは中国に負けることを意味しかねない。しかし、実際には規制には良いものも悪いものもある。1988 年に日本の自動車メーカーが勢力を伸ばしていたとき、ロナルド・レーガン政権の運輸長官は、より厳しい燃費規制をアジア勢に対する競争上の足枷だとして批判した。その 10 年後にはウォール街からの圧力に屈してビル・クリントン大統領が商業銀行と投資銀行の分離する規制を撤廃した。これがアメリカの金融機関が世界金融市場で勝ち残る助けになると主張した。この決定は後に、リーマン・ショックの引き金の 1 つとして特定されることになる。

 中国はアメリカ人が畏怖と絶望の念を抱くほどのスピードで建設を進めることができる。スタンフォード大学フーバー研究所の研究員ダン・ワン( Dan Wang:王旦)は、2025 年に出版した著書「 Breakneck (未邦訳)」の中で、米中両国間の競争を技術者主導国家と法曹中心社会の対決と捉えるイメージを広めた。この著書は他にも読みどころ満載で奥深いものである。ちなみに、当初、ワンは「速く動いて人を壊せ( Move Fast and Break People )」というタイトルを考えていたが、出版社に却下された。「速く動いて物を壊せ( Move Fast and Break Things )」という Meta の有名なスローガンをもじったものである。ワンは、一人っ子政策のマクロ経済への影響を研究してきた。彼によれば、この著書が出版されて以降も、この問題はさらに悪化しているという。中国は科学技術分野で大きな成果を出しつつあるものの、国内の問題は根深いという。「上海は実に素晴らしい都市で世界三大都市の 1 つと言ってもよいだろう。しかし、ほとんど誰も子供を産みたがらないのに、どうして中国は偉大な文明国と言えるのだろうか?」と彼は言う。特に若い中国人は、諦めや満たされない気持ちに囚われている。AI 関連企業や金融業で働くごく一部の者たちを除けば、ほとんどは希望を抱くことはできない。中国経済が成長したとしても、恩恵を受けられる者は限定的だからである。

 中国は国家主導型技術開発を進めたことで、76 秒ごとに電気自動車を生産できるようになった。しかし、このままでは技術の進歩にもやがて限界が来る。多くの国民が社会に疎外感を抱き、未来を担う子供を産むことを拒んでいるからである。中国共産党は世界を魅了するような AI 起業家を欲しがる一方で、彼らがどこに行き、何者になるかを決める権力をも欲しているのである。

 アメリカには別の弱点がある。これまでのところ、ディストピア的なテクノロジーの利用は、政府の顔認識システムよりも、データを利用して人々の生活に対する支配力を高めている少数の超巨大企業によるものである。例えば、AI を使ってどの治療を保険適用とするかを決定する保険会社や、顧客の位置情報、習慣、緊急度に応じて価格を上げる「監視型価格設定( surveillance pricing )」を導入する小売業者などである。しかし、民間防衛請負業者が国内の法執行機関、移民、国家安全保障を相互に連携する組織に統合するのを支援するにつれ、この区別は曖昧になりつつある。AI が本当に生活を向上させる可能性のある分野でさえ、決定は秘密裏に行われている。ウェイモ( Waymo )は人間の運転手よりも優れていると報告して一部の運転データを公表しているが、自動運転車開発企業はいずれも公的機関の監視には反対している。エド・マーキー( Ed Markey )上院議員が大手 7 社に対し、自動運転車が困難に陥って人間のオペレーターがリモートで操作する頻度を尋ねた際には、いずれも回答を拒否した。数社は機密情報であることを理由に挙げた。

 システムが中央集権的であればあるほど、エラーが生じた際の影響範囲は広い。3 月には中国の十数都市で自動運転タクシーを運営する百度( Baidu )で大規模システム障害が発生した。約 500 台が一斉に幹線道路や高速環状道路の車線上で身動きが取れなくなった。あちこちで交通渋滞や大混乱が引き起こされた。おそらく、自動車やトラックの運転席に人間がいない方が間違いなく事故が少ないレベルに達していると思われるが、歴史はこうした決定をエンジニアだけに任せてはいけないと警告している。現在、世界を見渡すと市民生活のあらゆる側面に AI を急速に組み込もうと急ぐ国もいくつかある。しかし、そうした国々が国民を支援する備えが最も整った国であるわけではない。必要なのは、AI 導入に関する決定を歪んだイデオロギーや汚職から切り離すことであり、AI による利益と損失の双方を分配する方法を見出すことであり、そして国民が自らの将来に発言権を持っていると感じられるようにすることである。

 現在のアメリカはうまく機能していないところがあるように見えるが、この国の政治システムは、国民が問題を解決しようとすれば、国民に解決する力を与えるように設計されている。ヴットケが述べたように、「アメリカは、一度崩壊しても、その後再生する能力が備わっている。中国にはそれがない」。最も率直に問題に向き合える側が有利になるかもしれない。中国、ロシア、あるいはアメリカが、オルタナティブ・リアリティ( alternate reality:各国政府やメディアが作り出す、都合の良い世界観や情報空間)にどっぷりと浸かり、その幻想の中で生きることは危険である。なぜなら、現実の世界で実際に起きている歴史の重大な変化や警告を見落としてしまうからである。