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10 年前の北京には、中国が近いうちにアメリカに挑戦するだろうと予測した者はほとんどいなかった。中国の数十年にわたる経済成長は鈍化し、政府による自由な思想への締め付けは、野心的な人々を海外へと追いやっていた。当時、中国にいたアメリカ人がアメリカと中国の良さを比べると、決まりきった質問と答えのやり取りになることが多かった。あなたが中国の力は増していると指摘すると、相手は「アメリカほどではない」と答えるのが常だった。
中国の支配層は、段階的にアメリカには敵わないという見解を放棄してきた。2016 年にブレグジット( Brexit )が承認されたとき、西側諸国は内向きになっているように見えた。新型コロナウイルスワクチンをめぐる混乱は、アメリカが分裂しつつあることを示唆し、連邦議会議事堂襲撃事件は、また別の兆候を示した。トランプは、ホワイトハウスに復帰した際に「アメリカがアトラス( Atlas:ギリシャ神話の巨人神)のように世界秩序全体を支える時代は終わった」と宣言した。彼の側近のスティーブン・ミラー( Stephen Miller )は、代わりに「力によって統治される」国際秩序について語り、「これらは太古の昔から存在する世界の鉄則である」と付け加えた。
先日、北京の人民大学( Renmin University )にあるシンクタンクが、「トランプに感謝( Thank Trump )」と題する評価報告書を発表した。アメリカの同盟関係、公務員制度、研究機関、民主主義の信頼性を弱体化させることで「帝国の黄昏( twilight of an empire )」を早めようとするトランプの努力を皮肉たっぷりに賞賛した。非営利組織のアライアンス・オブ・デモクラシー( the Alliance of Democracies )が世界各国を対象に行った調査によると、過去 2 年間でアメリカの国際的な支持率は 40 ポイント近く低下している。複数の国で中国がアメリカよりも高い評価を得ている。
中国にとって、アメリカが(国際舞台から)退いていく今のタイミングは、中国が何十年も続けてきた国家投資、産業政策、そして外交政策がちょうど実を結びつつある時期と重なっている。中国の公式統計を全面的に信用するのは無謀だろう。エコノミストの高善文( Gao Shanwen )がかつてワシントン DC の聴衆に語ったように、中国の公式の成長率は「常に 5% 前後」になっている。しかし、変化は明白である。20 年間で、中国はアメリカの約半分の電発量から 2 倍以上へと成長し、しかもはるかに低い価格で発電している。2023 年には、アメリカが建国以来設置した太陽光発電設備の総量を上回る太陽光発電設備を設置した。一方、トランプは化石燃料に再び傾倒したが、歴史家のティモシー・スナイダー( Timothy Snyder )はこれを「おそらく最も基本的な形での超大国の自死」と評する。
トランプは何年も前から、中国が不公正な貿易慣行によって自国を蹂躙するのを阻止すると約束してきた。2025 年 4 月の解放記念日( Liberation Day )に、彼は包括的な関税プログラムを発表した。スコット・ベッセント( Scott Bessent )財務長官は、中国はすぐに屈服するだろうと予測し、相手側には勝てる手札がないと主張した。しかし、中国はレアアースと強力な磁石の輸出を制限することで報復した。数週間以内に、フォード( Ford )はシカゴ工場でのエクスプローラー( Explorers )の生産を停止せざるを得なくなり、多くの自動車メーカーは取引を懇願した。それ以降、中国は世界最大の貿易国としての地位を維持しただけでなく、アメリカから輸出先を転換することで、1.2 兆ドルの記録的な貿易黒字を達成した。2001 年には、5 カ国のうち 4 カ国が中国よりもアメリカと多く貿易していた。2023年までに、この構図は逆転した。10 カ国のうち 7 カ国が中国とより多く貿易している。
今のところ、中国の支配層はアメリカを公然と敵視することを避けている。なぜなら、たとえ衰退しているとはいえ、アメリカは依然として他に類を見ないほど危険な存在だと信じているからである。トランプ大統領がベネズエラとイランに介入し、カナダとグリーンランドを脅迫した後、中国共産党機関紙である北京日報は、アメリカが「圧倒的な軍事力によって世界を略奪と分裂の暗黒時代に引き戻している」と書いた。しかし、この強気な発言の裏には、より冷徹な計算が隠されている。中国共産党指導部は、トランプ大統領の世界支配への試みが、実際には中国を利していると考えている。
ジョージタウン大学の教授で外交問題評議会の中国専門家であるラッシュ・ドシ( Rush Doshi )は、トランプの領土支配への執着に、歴史上繰り返されてきた過ちを見出している。18 世紀にロシアがユーラシア大陸の征服に固執していた頃、イギリスは蒸気機関を開発した。19 世紀と 20 世紀にヨーロッパ諸国がアフリカを巡って争っていた頃、アメリカは組立ラインの仕組みを構築した。今日、アメリカがベネズエラを統治し、イランとキューバを弱体化させようとしている一方で、「中国は未来の技術の獲得に注力している」とドシは述べる。もしアメリカが、太陽光パネル、バッテリー、電気自動車を巡る競争で敗北したように、AI 、バイオテクノロジー、ロボット工学といった次世代産業の競争でも敗北すれば、「パワーバランスは不可逆的に変化するだろう」とドシは指摘する。
中国はどのような世界を思い描いているのか。その一端を、2013 年以来、数十カ国に約 1 兆ドルを投じて高速道路、病院、鉱山、港湾、そして中国の技術を備えたスマートシティ( smart cities )をいくつも建設してきた一帯一路構想( Belt and Road Initiative )に垣間見ることができる。ドシによれば、中国にとって独裁政権は完全に正当なものとみなされ、テクノロジーは独裁政権を強化するために利用されている。中国は世界中の独裁者に「権力を維持したいか?私がお手伝いできる」と言って声をかけているという。ネパールでは、最新の顔認識システムが、抗議活動を行うアクティビストたちに対してすでに実戦配備されている。そのシステムのモニターがある壁の上部には、「中国公安部(中国の警察・治安維持を統括する国家機関)から寄贈」と書かれた看板が掲げられている。
しかし、北京のグローバルビジョンを最も明確に示しているのは、中国自身の現状かもしれない。「どんな国も、自国の国内秩序とよく似た外部秩序を作り出す傾向がある」とドシは述べる。中国は世界を自国内と同じような監視・統治社会にしようとしており、他国がそれに気づいて警戒しないよう、「我々の台頭は止められない(諦めろ)」、「でも心配はいらない(敵ではない)」という矛盾した 2 つのメッセージを同時に発信して油断させている。